日本先進医療臨床研究会理事長 小林 平大央
「理論医学」で考える難病のガンの本質は過剰に摂取した糖質を処理する装置だった⁉
「理論医学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。福島県郡山市で糖尿病や高血圧、動脈硬化、ガンなど、標準的な治療法では完治が難しい疾患の根本治癒を目指して診療をする、あさひ内科クリニック院長の新井圭輔先生が提唱されている概念です。
理論医学とは、日本先進医療臨床研究会が提唱しているSBM(Science-Based Medicine=科学的な考察に基づく治療)と同様の考え方に基づいて考案された造語です。理論医学のアプローチによって過去25年にわたって行われた治療では、ほとんどの患者さんで驚異的な成果を生んでいるのです。
ところで、科学的な考察とはなんでしょうか。科学的な考察とは、観測された事実を冷静かつ正確に把握・分析して、そこから導き出される仮説を立て、その仮説に従って検証を行い、事実としての現象とその原因となる事象を特定する行為とされます。科学的な考察の大前提には「結果には原因がある」という自然科学の鉄則があります。
「病気」という現象としての事実を、なんらかの原因の結果と仮定すると、その結果を生んだ原因や複合的な要因があるはずです。そして、それらの原因や要因を突き止めて治療法や因果関係を見いだすことが、現代の西洋医学であると一般的には思われています。
ところが、現在の医学教育や医療の現場では、病気の原因を突き止めて根本的な解決を図る治療法が行われているのはごく一部です。大部分の医療は「対症療法」という病気の症状だけを止める治療法にとどまっています。そして、肝心の病気の原因そのものにはアプローチができておらず、治療方法も因果関係も発見できていないのです。こうした医学的アプローチを「経験医学」と呼んでいます。
経験医学は、EBM(Evidence-Based Medicine=実績に基づいた治療)という手法に代表されるもので、病気の原因や要因を考察して取り除こうとするのではなく、単にこれまで行った治療実績に基づいて治療方針を決める医療です。そのため、症状の緩和はできても、根本的な原因の除去や解決ができない場合がほとんどです。また、治療実績のない未知の疾患には対応できないことになります。
新井圭輔先生は「ガンの正体は過剰糖質の処理装置である」と指摘しています。ガン細胞とは、もともと自分の細胞がなんらかの理由でガン化したものです。なんの理由もなくガン化するはずがないため、なにか理由があるはずと考えた時、その理由はガン細胞が行っているブドウ糖の大量消費にあるのではないかという考えにたどりつきます。つまり、ガンは血液中に過剰に存在する糖質を処理するために生まれてきたのではないかと考えられるのです。
人類の歴史は飢餓との闘いでした。本来、糖質は生体のエネルギー源として非常に貴重です。エサとなる食料がとれないと、次はいつ生命活動に必要なエネルギーを補給できるか分かりません。そのため、食事ができた時は、その時点で必要な分以上の糖質が肝臓や筋肉に蓄えられ、必要な時に取り出されてエネルギーとして供給されるしくみとなっています。
また、想定以上に大量の糖質が食事から補給できた時は、肝臓や筋肉の保存の容量を超えてしまいます。そのため、余った糖質は「インスリン」というホルモンの力を借りて脂肪組織に「中性脂肪」という形で蓄えられるように設計されています。
これまでの人類の歴史では脂肪組織で蓄えられる量を超える糖質の摂取は行われてこなかったため、人類は長い間こうした生体のしくみで問題なく生活してきました。ところが、およそ1万年前に始まった農耕革命と、その恩恵である穀物の大量摂取によって、人類はこれまでに経験したことのない大量の糖質を摂取できるようになったのです。
過剰の糖質が血液中にあると、血管壁を障害し、動脈硬化などを引き起こします。その結果、酸素や栄養素の供給不足に陥り、細胞や臓器を傷つけて臓器障害や病気を引き起こしてしまう危険があります。そのため、生体は過剰な糖質をなんとか処理しなければならない事態になったと推察されます。そして、その解決策として生体が生み出したのがガン細胞という「過剰な糖質を処理する装置」だったのです。
そこで、こうした仮説に基づいて「では、ガンの根本原因はなにか?」と問えば、「個体差はあるが、個体の想定を超えた量の過剰な糖質摂取がガンの原因ではないか?」という仮説が成り立ちます。そこで、その仮説の解決策として糖質の過剰摂取を制限する「糖質制限」を試してみると、多くの患者で劇的な効果があり、驚くほど治療成績が上がるのです。
ただし、一度できてしまったガンは簡単には消えてくれません。そのため、過剰な糖質をとらないように制限したからといって、それだけでガンが完治するわけではありません。重要なのは「ガン組織の増殖抑制をする」ことです。
「悪性」と呼ばれるガンの問題点は、ガンが増殖してどんどん大きくなっていくことと、「転移」という現象で体中の臓器に広がっていき、正常な細胞や臓器の働きを妨害することです。つまり、ガンは大きく成長したり転移したりしなければ怖い存在ではありません。
そのため、ガン治療の本質はガンを根絶やしにしてゼロにすることではなく、増殖・転移を抑制することです。体の中に多少ガンがあっても問題のない「寛解」という状態であれば、ガンは怖い存在ではないのです。
寛解状態の維持を目指すガン治療法では、できる限り手術をせず切らない治療が重要です。一度切った臓器は二度と元に戻りません。失った臓器が果たしていた機能は、基本的に元には戻らないのです。そのため、同じように寛解状態を維持できるのであれば、できるだけ臓器を切らないほうが望ましいのです。
このように考えると、ガンの寛解状態を維持するのに優れた治療法は、実は現在主流のガン治療である手術や抗ガン剤治療ではありません。むしろ、手術に替わる放射線治療と免疫を上げる種々の治療法の組み合わせとなるのです。
今回、新井圭輔先生の理論医学によるガンの本質と治療法についてお話ししました。なお、理論医学の詳しい内容は、新井先生の書籍をご参照ください(中編に続く)。
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